【研究発表】相談窓口の現状と課題~弊所の相談実績から見えたこと~
「相談したいけど、どこに相談すればいいか分からない」「相談したのに、何も解決しなかった」。もし、こうした経験をお持ちなら、それはあなただけの問題ではありません。弊所の一年間の相談実績771件を分析し、相談窓口が抱える構造的な課題と、その解決に向けた提案をまとめました。ぜひ、ご一読みください。
日本の相談窓口の現状と課題の解決に向けて
~制度やサービスの利用は私たちの権利であり義務である~
Ⅰ.研究目的
この研究の目的は、相談窓口に辿り着けない、または辿り着いても困りごとを解決できない人々が抱える課題を明らかにし、効果的に支援にアクセスできる仕組みを構築することである。相談業務で蓄積された相談実績をもとに、現行システムの限界を検証し、新たな具体策を提示する。そうすることで支援へのアクセスの改善と質の向上を図り、社会のセーフティネットを強化することに貢献をしていく。
Ⅱ.研究方法
本研究では、相談窓口に辿り着けない、または辿り着いても解決に至らない人々が抱える課題を明らかにするため、以下の手順で進める。
①支援事例の整理・これまでの相談業務で得られた支援事例を基に、相談者がどのような状況で相談窓口に辿り着けなかったのか、または辿り着いても解決に至らなかったのかを整理する。
②課題の考察・整理された内容を基に、相談者が直面している具体的な課題を考察する。
③相談窓口へのアクセス促進と解決につながる支援の強化策・考察された課題を踏まえ、相談窓口にアクセスできるようにするだけでなく、相談窓口に辿り着いたとしても問題が解決しない状況を改善するための具体的な対策を提案する。
Ⅲ.倫理的配慮
本研究におけるデータの管理に関しては、十分な秘密保持を行い、個人情報の保護に配慮する。具体的には、相談事例に関連する情報は特定の個人が識別できないように加工・修正を行う。
Ⅳ.支援事例の整理
支援事例の基となるのは、ふたつ社会保障制度調査事務所(名古屋市中村区)の相談実績である。当事務所は「望む相談窓口に辿り着けなかった方」「相談窓口を利用したにもかかわらず問題解決に至らなかった方」を対象とする社会福祉士事務所である。
相談実績 期間・令和5年10月1日から令和6年9月30日 相談件数・合計771件
相談者が望む相談窓口に辿り着けない状況
・どの相談窓口に相談すべきか、またどこに相談窓口があるのか分からなかった。
・複数の相談窓口が存在し、どこに相談するかを選ぶことが難しく迷ってしまった。
・問題の内容や自身の状況に対して、他者に相談することへの不安や抵抗感が強いため、相談窓口を利用すること自体を躊躇した。
・相談窓口へのアクセスが物理的または時間的に困難で、相談窓口が開いている時間に相談できなかった。
・過去に相談しても解決しなかった、または不快な思いをした経験がある。
・病気や障害があるため相談窓口を探せない、探せても相談をすることができなかった。
・相談窓口の利用に金銭的、時間的、精神的な負担が大きく相談をためらった。
こうした状況、また、こうした状況が複合的に影響し、相談者が適切な窓口に辿り着けないということが起きている。
相談者が相談窓口を利用したにもかかわらず問題解決に至らなかった状況
・手続きや必要書類が多く、どこから手を付けてよいか分からず申請を断念してしまった。
・相談窓口の担当者が問題に対して十分な知識や経験を持っていなかった、(他機関の紹介など)代替案を示してくれるということもなかった。
・相談者が期待している支援内容と実際に相談窓口が提供できる支援内容にギャップがあった。
・制度の対象者が(年齢や所得など)限定されていた。
・一度の相談だけで終わってしまい、その後に相談者のアクションや相談窓口のフォローアップがなく、問題が解決しないまま放置されている。
こうした状況、もしくはこうした状況が絡み合うことで、問題解決に至らないということが起きている。
Ⅴ.課題の考察
整理した相談事例を基に、相談者が望む相談窓口に辿り着けない状況、及び相談者が相談窓口を利用したにもかかわらず問題解決に至らなかった状況における課題を、以下の通り考察する。
相談者が望む相談窓口に辿り着けない状況における課題の考察
・相談窓口の場所や適切な窓口を選択するための情報が不足している。また、相談窓口が複数存在する場合についても情報が不足しているため、どこに相談すべきか判断をすることができない。
・「相談をする」ということに対して不安や抵抗感があり、相談窓口の利用自体をためらってしまう。特に相談内容がデリケートな場合や過去の相談経験が不快なものであった場合、この傾向が顕著である。
・相談窓口へのアクセスが困難な環境や、相談窓口の対応時間が相談者の生活リズムに合わないことが利用を妨げている。特に遠方に住む人や日中に時間が取れない人にとっては深刻な課題である。
相談者が相談窓口を利用したにもかかわらず問題解決に至らなかった状況における課題の考察
・手続きの複雑さや必要書類の多さが相談者にとって大きな障壁となっている。どこから着手すればよいか分からず、結果として相談をしたにもかかわらず申請を断念してしまうことがある。
・相談窓口の担当者が問題に対する十分な知識や経験を持たない場合、相談者が求める支援が提供されず問題が解決しない。代替案の提示や他機関への連携が適切に行われない場合も同様である。
・相談者の状況が制度の対象から外れている場合は支援を受けることができない。特に年齢や所得制限が壁となる場合が多い。
・一度の相談で対応が終了してしまい、その後のフォローアップが行われない。そのため相談者が適切なアクションを取れずに問題が放置される場合がある。
これらの課題は個別に発生する場合もあるが、複数が絡み合うことで相談者の負担が増大し問題解決をさらに困難にしている。
Ⅵ.相談窓口へのアクセス促進と解決につながる支援の強化策
支援事例の整理と課題の考察から、相談窓口の存在だけでは支援が十分に行き届かない現実が明らかになった。情報不足や心理的ハードルが相談窓口へのアクセスを妨げ、さらに窓口に辿り着いたとしても、手続きの複雑さや支援の限界が問題解決を阻んでいる。これらの課題を踏まえ、相談窓口の利用促進と支援機能の強化に向けた具体策を提案する。
具体策のメインとしては「情報の一元化」である。国や都道府県、市町村、企業、NPO、ボランティア団体、地域コミュニティなどの制度やサービス、相談窓口に関する情報を一箇所に集約するため、それぞれの情報発信を増やすのではなく、むしろ減らし、必要な情報を整理して提供することが必要である。具体的には、webサイト及び相談窓口の創設(名称(仮)社会保障制度調査窓口)、もしくはそれらの機能を外部委託するということが考えられる。こうした情報の一元化は、相談者が一つの制度の対象外となった場合でも代替案を提供しやすい等、相談窓口へのアクセス促進にとどまらず、問題解決につながる支援の強化の側面もあると考えている。その他、初回相談は匿名で行える体制の整備、モバイル相談窓口やオンライン相談サービスの導入といったことが考えられる。
今回取り上げた研究で浮き彫りになった課題は、大変深刻で根深い。そうした課題の対策は必然的に周りから「実現不可能」と取られてしまうことが多い。しかし、社会福祉士として、課題解決のプロセスの困難さではなく、相談者が本当に必要としている支援に目を向け、時間がかかったとしても、水が石を穿つように対策の実現に取り組んでいきたい。
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